こんにちは。学生団体CORUNUMです。今回はCORUNUMとも深く関わりのあるテーマ「アートセラピー」についてご紹介したいと思います。CORUNUMでは子供の絵のグッズ化や展覧会などを企画していますが、海外ではアートはどのように扱われているのでしょうか?また、どのような効果が期待されているのでしょうか?
今回はアートセラピー先進国とも呼ばれるアメリカに的を絞って、これらの質問にお答えしたいと思います。
Ⅰ アートセラピーとは
そもそもアートセラピーとはなんでしょうか?現在、様々な心理療法が確立されていますが、アートセラピーはその一つです。様々な定義がありますが、せっかくなので今回はアメリカンアートセラピー協会「American Art Therapy Association (AATA)」のものを使いたいと思います。
Art therapy is an integrative mental health and human services profession that enriches the lives of individuals, families, and communities through active art-making, creative process, applied psychological theory, and human experience within a psychotherapeutic relationship.
(ホームページより)
簡単に翻訳すると、
セラピーとは、芸術の創造、創作の過程、応用心理学や心理療法の経験を通し、個人、家族、コミュニティの人生を豊かにする専門分野である。
つまり、アートセラピーとは芸術などの創作活動と心理学を組み合わせた心理療法だと言えます。それだけでなく、アートセラピーとは訓練されたセラピストによって実践されるものであり、市販でアートセラピーを謳っている商品の多くはAATAの定義によると、アートセラピーではありません。
例えば「大人の塗り絵」の本を目にしたことはありますか?このようなアートによって安らぎを得る活動はアートセラピーと混同しがちですが、実は似て非なるものだそうです。多くの場合、塗り絵の本はアートセラピーの非専門家によって出版されているため、アートセラピーとは別物になります。(もちろん、これは塗り絵そのものを否定しているのではなく、あくまでアートセラピーとは異なるものだということです。)
Ⅱ アメリカにおけるアートセラピーの歴史
アメリカでアートセラピーを確立したのは、マーガレット・ナウムブルグと言われています。彼女は1969年にニューヨーク大学の大学院にてアートセラピーのプログラムを設立し、アートを使った精神状態の診断、治療法を築き上げました。このプログラムは今もなお、世界的に認められたアートセラピープログラムとして知られており、現在でもアートセラピー教育における功績者として讃えられています。
同年の1969年に、アメリカンアートセラピー協会 (AATA)も設立されています。オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどの国もこれを習い、アートセラピー協会を設立しています。また、同時期にマーガレット・ナウムブルグの他にもう一人アートセラピーの先駆者として活躍した人がいます。アーチストのエディス・クレーマーです。
彼女はオーストリア生まれで、1938年に難民としてニューヨークに渡っています。芸術家として活動する傍ら、教育者としてもアートに関わり、ジークムント・フロイトの精神分析を取り入れるようになります。1944年にはアメリカ人となり、ニューヨーク大学のアートセラピープログラムの開発に携わりました。
Ⅲ どこで何をするの?
アメリカにおいてアートセラピーは病院、学校をはじめ、リハビリテーションセンターや地域のクリニックなど行われています。具体的にはどのようなものを創作するのでしょうか?アートと一口に言っても、芸術活動は様々です。例えば、コラージュ、塗り絵、落書き、写真、彫刻、絵画など、活動は多岐に渡ります。他にも粘土など、アートセラピーは一つの型に当てはまらない、言葉以外の表現方法を用いた自由度を感じる心理療法です。
セラピーにアートはどのように使われるのでしょうか?一つの例は自分のストレスを絵を通して具現化することです。思いのままに感情を表現した時、その人はどのような色や線が描くのか、これらをとっかかりとしてセラピストはクライアントと対話します。最も、これはあくまで一つの例で、実際は年代や症状、目的などによってアートセラピーの形は変わります。一つ重要な点は、アートセラピーは芸術とは違い、過程に重きを置き、アートそのものの良し悪しを評価しないことです。
例えば、ある女の子はセラピストとのセッション中にセラピストに目もくれず絵を書き上げていました。彼女は社会不安障害や知覚障害の経歴があり、セラピストは彼女が絵に集中できるよう静かに座っていました。しばらくすると、彼女は顔を上げずにセラピストに自分の感じていること、創作が彼女の役に立っていること、言葉に頼らない表現方法が好きなことなどを話し始めたそうです。セラピストは彼女が自然と他者と会話をするところを初めて見たそうで、これは大きな出来事だったと言います。(こちらに他にもたくさんの例が掲載されています:https://arttherapy.org/story-library/)
このように、アートを通して得られるものは時にはセラピストにとっても予想外であり、良い意味で期待を裏切ることもあるようです。
Ⅳ アートセラピーの資格
一つ、アメリカの資格における興味深い点は州ごとに規定や法律が違うことです。アートセラピーも例に漏れず、州によって扱いや待遇が異なります。例をあげると、ニュージャージー州ではアートセラピーの資格のみで臨床心理の現場で仕事ができるのに対し、カリフォルニア州では臨床心理の現場で活躍するにはマリッジ・アンド・ファミリーセラピスト、またはプロフェッショナル・クリニカルセラピストの資格も必要になります。
まだアートセラピーのライセンス化がされた州は少ないですが、2021年5月にテネシー州においてアートセラピーのライセンスが認められました。このように、アメリカでアートセラピーの認知度が広まっていることが分かりますね。アメリカでのアートセラピーは州によってセラピストの資格も変わってくるので、もしアメリカのアートセラピーに携わりたい、資格を取りたい、という方は要チェックかもしれません。
Ⅴ 終わりに
アメリカのアートセラピー、いかがでしたでしょうか? 私自身、ブログ記事執筆を通して学ぶことも多く、非常に興味深い分野だと思います。何よりアートセラピーが広まっているアメリカにおいても、まだまだ普及、発展が期待できることがよく分かりました。
参考文献:
https://www.goodtherapy.org/famous-psychologists/margaret-naumburg.html
https://adelphipsych.sg/the-history-of-art-therapy/
https://en.wikipedia.org/wiki/Edith_Kramer
https://www.verywellmind.com/what-is-art-therapy-2795755
https://www.bunkaiwa.com/post/how-to-become-arttherapist
http://www.konan-u.ac.jp/kihs/categories/wp-content/uploads/2012/04/p3report.pdf
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